ディスカッションペーパー

2000年代後半の貧困動態の確認とその要因に関する分析

DP番号 DP-2009-006
言語 日本語のみ
発行年月 March, 2010
著者 石井 加代子
JELコード
キーワード
ダウンロード PDF
要旨

本章では、2004 年から2009 年までの「慶應義塾家計パネル調査(KHPS)」の所得情報
を利用して、同一個人の所得の変動を追うことで、不安定な雇用情勢下の2000 年代後半に
おける貧困層の動態を確認し、それら貧困動態が何により生じているのか、その要因につ
いて解明することを目的とした。
分析の結果、2000 年代後半に貧困層の固定化がわずかに深刻化したことがわかった。単
年度の貧困率においては大きな変化はなかったが、2000 年代半ばには、より多くのものが
ランダムに貧困を経験していたのに対し、2000 年代後半には、より限られた人が複数年に
わたり貧困層に定着するようになったことがわかった。
また、貧困突入および貧困脱出の要因を分析した結果、現役世代においては、世帯主の
就業形態が貧困突入や脱出に有意に影響を与え、非正規で働くものは正規社員と比べ、貧
困に突入しやすく、脱出しにくいことがわかった。さらに、世帯内の就業者数の減少は、
有意に貧困突入確率を上げ、有意に貧困脱出確率を下げる一方、世帯内の就業者数の増加
は、貧困突入にも脱出にも有意な影響を与えないことが明らかになった。現役世帯におい
て、就業し所得を得ることが、貧困防止や貧困からの脱却の1 つの有力な手段であるが、
雇用の不安定化を背景に、就業と貧困防止の結びつきが弱まっていることが示唆された。