ディスカッションペーパー

2010年代における日本の所得税改革の所得再分配効果に関する分位点回帰分析

DP番号 DP2026-002
言語 英語のみ
発行年月 May, 2026
著者 土居丈朗、朴栓鏞
JELコード H24; H23; D31
キーワード 所得税改革; 所得再分配; 等価世帯可処分所得; 差分の差分法; 分位点回帰
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要旨

本稿は、2010年代に日本で実施された一連の所得税改革が、等価世帯可処分所得の分布および所得税制の再分配機能に与えた影響を検証する。分析には、日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)の2009–2021年調査の個票データを用いる。所得税額および社会保険料をマイクロシミュレーションにより推計し、等価世帯可処分所得を構築したうえで、加重差の差法(weighted DID)、条件付き分位点DID、および無条件分位点DIDを用いて、平均的効果と分布上の異質的効果を推定する。さらに、イベントスタディ分析を通じて、平行トレンド仮定の妥当性を補足的に検証する。
分析の結果、所得税改革の再分配効果は、各改革の制度設計および対象となる所得階層に応じて体系的に異なることが明らかとなった。2011年および2018年の給付拡充・税負担軽減型の改革は、主として低・中所得層の等価世帯可処分所得を増加させた。一方、2013年、2016年、2017年および2020年に実施された所得控除の縮小・上限設定を伴う改革は、高所得層の可処分所得を低下させた。2014年の上場株式等の配当・譲渡所得に対する軽減税率の廃止は、中・高所得層を中心に可処分所得を増加させたものの、所得分布全体に与える影響は限定的であった。特に、基礎控除を引き上げる一方で給与所得控除および公的年金等控除を見直した2020年改革は、高所得層の可処分所得を低下させるとともに、低所得層では小幅な増加をもたらし、所得分布を圧縮する効果を示した。以上より、2010年代の日本の所得税改革は、控除縮小と給付拡充の組合せを通じて、所得税制の累進性を強化したことが示唆される。