ディスカッションペーパー

夫婦の家事・育児分担と妻の幸福度の関係―夫婦でどのように家事・育児を分担すると妻が最も幸せとなるのか―

DP番号 DP2020-004
言語 日本語のみ
発行年月 August, 2020
著者 佐藤一磨
JELコード I31; J12
キーワード 夫婦の家事; 育児分担;幸福度
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要旨

夫婦間における家事・育児分担は、妻の主観的厚生にどのような影響を及ぼすのか。この問は、重い家事・育児の負担も担っている働く妻にとって興味・関心を集める論点だと言える。本稿では慶応義塾大学パネルデータ設計・解析センターの『消費生活に関するパネル調査(JPSC)』を用い、夫婦の家事・育児分担と妻の主観的厚生(幸福度)の関係をさまざまな視点から分析した。分析の結果、次の3点が明らかになった。1点目は、夫婦の家事・育児分担と妻の幸福度の関係が線形なのか、それとも非線形(逆U字型)なのかを検証した結果、非線形(逆U字型)であることがわかった。この結果は、妻の幸福度を最も高める家事・育児分担が存在することを示唆する。2点目は、夫婦の家事・育児分担と妻の幸福度の関係に関するOrdinary Least Squares (OLS)によるシミュレーション分析の結果、妻の就業状態によって、妻の幸福度が最大となる点が異なることがわかった。幸福度が最大となる妻の家事・育児分担割合を計算した結果、共働きの妻では55%であり、専業主婦では60%または61%であった。なお、共働きの妻の中でも正規雇用で働く妻の場合、妻の幸福度が最大となる家事・育児分担割合は46%または47%であった。この結果は、正規雇用で働く妻の場合、夫婦間でほぼ均等に家事・育児を分担すると、最も妻の幸福度が高くなることを意味する。3点目は、夫婦の家事・育児分担と妻の幸福度の関係に関するOLSのシミュレーション分析を子どもの数別に行った結果、子どもの数が増えるほど、幸福度が最大となる妻の家事・育児分担割合がむしろ増えることがわかった。子どもの数が増えるにつれて、より夫に家事・育児に参加してもらった方が妻の幸福度が向上すると予想していたが、実際の結果は逆であった。この結果の背景には、2つの要因が考えられる。1つ目は、そもそも子どもが好きな女性ほど子どもを多く持つ傾向があり、子どもと接する時間も長いという可能性である。2つ目は、性別役割分業意識に代表される社会規範の影響が子どもの数が多いほど強くなり、その社会規範に沿った行動をとった方が幸福度も向上するようになるといった可能性である。