育児による休職や時短勤務者の増加による人手不足は労働者の仕事満足度を低下させるのか
日本では育児休業制度や短時間勤務制度が普及し、利用者が増えている。しかし、これは同時に制度利用に伴う一時的な労働力不足といった問題を引き起こす。企業ではこの問題に対して必ずしも代替要員の確保といった対応を取らず、部署・職場単位での業務再配分によって対処する傾向がある。これは職場における既存人員の業務負担増加につながり、仕事満足度を低下させる可能性がある。本研究は、職場における育児に起因した人手不足の発生の有無を識別できる個票データを用い、この実態を検証する。分析の結果、次の5点が明らかになった。1点目は、勤務先の企業規模や女性正社員割合が大きいほど、そして、未婚・子どもなしの女性ほど、育児に起因した人手不足に直面する確率が高くなっていた。2点目は、育児のための休職者や短時間勤務者の増加によって、仕事満足度が低下しやすかったのは、未婚・子どもなしの女性と既婚・子どもありの男性であった。既婚・子どもありの男性の仕事満足度低下の背景を探るために、既婚・子どもありの男性を管理職と非管理職に分けて再度分析を行った結果、管理職で仕事満足度の低下が顕著であることがわかった。3点目は、育児に起因した人手不足の発生時期別の影響を検証した結果、男女ともに直近の人手不足の影響は小さく、2年以上前から発生している人手不足によって仕事満足度が低下していた。4点目は、育児に起因した人手不足による影響を受けやすい未婚・子どもなしの女性のうち、仕事満足度の低下が顕著だったのは、30歳未満の若年層、平均所得以下の所得層、100人未満の中小企業勤務、女性正社員割合50%以上の企業に勤務という場合であった。5点目は、育児に起因した人手不足が発生する企業の特徴を見ると、社員の育児休業利用を促進する傾向にあった。また、直近の3年間で従業員の求人募集の充足率が低下していた。