第2回JHPS AWARD 審査結果発表

第2回JHPS AWARDの審査結果発表

 慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター(PDRC)主催の大学学部生を対象としたパネルデータ論文コンテスト第2回「JHPS AWARD」には、昨年に続き、幅広い大学・学部・学年から優れた論文の応募が多数ありました。コロナ禍でキャンパスでの授業やゼミ活動が制限される状況下でも、積極的に研究活動をする学生の存在に大きな希望を感じました。昨年度同様に、所属先など著者情報の匿名性を担保したうえで、各審査員による書類審査と審査委員会での合議審査を行いました。厳正なる審査の末、今年度は、最優秀賞(1編)・優秀賞(1編)・審査員賞(2編)の計4編の論文を表彰することにしました。
 受賞論文のいずれもが、興味深い問題設定のもと、PDRCが提供するパネルデータの特徴を活かし、自らの研究のオリジナリティの創出に工夫を凝らした分析を行ったものでした。受賞論文のみならず、応募論文全体を通じて、パネルデータによる計量分析手法をよく理解し、自ら設定した問題に対して意欲的に取り組んでいることを感じました。応募された皆様方はぜひとも今回の論文作成で培った経験を今後の研究活動や職業生活の場面につなげ、ますますご活躍されることを心より願っております。


審査委員長
チャールズ・ユウジ・ホリオカ

🏆特賞🏆

残念ながら該当論文は選出されませんでした

🏆最優秀賞🏆


〜講評〜

 退職後に消費水準が下落することは、ライフサイクル/恒常所得仮説による「消費の平準化」とは一致しない現象であり、「退職消費パズル」として、経済学分野で長く議論されています。最優秀賞の「日本における退職消費パズルの検証」は、先行研究を十分に網羅したうえで、「日本家計パネル調査」というこのテーマに最適でありながら、今までほとんど活用されてこなかったデータを使用して、「退職消費パズル」の存在の確認をしています。さらに、この論文は「時間選好率」という「日本家計パネル調査」ならではの貴重な変数を利用して、「退職消費パズル」の要因を解明するという意欲的かつ独創的な試みをしており、この点を審査員一同高く評価しました。しかも、学術論文の体裁を遵守し、簡潔で洗練された完成度の高い論文であるといった点でも審査委員の意見が一致しました。ただし、「時間選好率」といった着眼点から得られた結果に基づき、結果の解釈や政策的含意についてより詳しく論じることで、より一層完成度の高い論文となったという指摘がありました。また、家計の流動性制約や異時点間消費配分といった視点も包含した分析を加えることでも、経済学に対する貢献がより明確かつ豊富なものになったという意見もありました。

🏆優秀賞🏆

「父親の育児参加・継続要因と母親の就業行動に与える影響分析」 (PDF)
慶應義塾大学 坂元しえる様・山口かな恵様

※写真左から山口様・坂元様

〜講評〜

 優秀賞の「父親の育児参加・継続要因と母親の就業行動に与える影響分析」は、「日本家計パネル調査」を用いて、父親の育児参加と母親の就業行動との間の関係といった多くの研究が存在する分野に加え、父親の育児継続といった新たな視点と、その要因分解と母親の就業行動への影響について分析した論文です。パネルデータによる計量経済学的手法を駆使し、家庭内資源配分といった経済学的観点から、様々なアプローチを用いて分析がなされている点が評価されました。先行研究との差別化を図って着目した父親の育児継続という視点は、学生らしい斬新な見方でオリジナリティが光るものであった一方で、育児継続を示す変数の定義の妥当性に対する疑問や、父親の育児参加や育児継続において、母親・父親の家事時間や労働時間の内生性が考慮されていない点など、改善点も少なからず審査員より指摘されました。

🏆審査員賞🏆


〜講評〜

 審査員賞の「家族との関わり方と子どもの問題行動」は、「日本家計パネル調査」および「日本子どもパネル調査」を活用して、家族・きょうだいとのかかわりや親のメンタルヘルスが子どもの問題行動にどのような影響を与えているのかを分析した論文です。研究モチベーションが明確で、論文全体を通して一貫している点が評価されました。家族関係を表す変数に学生らしい工夫がみられた点が評価された一方で、代理変数の妥当性や、計量分析における内生性の問題など改善点がみられました。

🏆審査員賞🏆

「中学受験の規定要因と親子の生活の質(QOL)に与える影響についての実証分析」 (PDF)
慶應義塾大学 王山寧洋様・西川丈二朗様・藤本大統様・向島千尋様

※写真左から西川様、王山様、向島様、藤本様

〜講評〜

 審査員賞の「中学受験の規定要因と親子の生活の質(QOL)に与える影響についての実証分析」は、中学受験の規定要因と中学受験による子どもと親のQOLへの影響を分析した論文です。テーマ設定がユニークで、ミクロデータを活用したパネルデータ分析のみならず、マクロデータ分析も行い、中学受験について多角的に分析しようとする、意欲的な論文構成が評価されました。ただし、親のQOLを「健康状態」のみでとらえる点については検討の余地があります。また、中学受験の成否はデータで十分に捕捉できているのか、中学受験というイベント発生に伴う階層や地域の偏りを十分に考慮していないのではないかとの指摘もありました。