ディスカッションペーパー

JHPS調査票回収状況および回答状況における調査実施方法のパフォーマンス

DP番号 DP-2009-005
言語 日本語のみ
発行年月 March, 2010
著者 直井 道生・山本 耕資・宮内 環
JELコード C81, C83
キーワード パネル調査、調査設計、回収率、代表性
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要旨

「日本家計パネル調査(Japan Household Panel Survey)」の第1 回目調査である2009 年調査では、標本の代表性確保のために高い回収率を実現する調査方法を探るために調査方法について各種の実験を試み、調査方法における諸要因が回収率に及ぼす影響について定量的分析を試みた。当該調査は社会保障政策などの効果検証を目的とした本格的なもので、こうした本格調査に併せて実施する実験的取り組みは、我が国では他にこれまで類を見ない。実験の諸要因が回収率に与えるであろう効果は大別して、調査員効果、対象者効果の2 つを想定した。前者は対象者に調査を依頼する調査員における熱意や技量の高低、を通じての回収率に与える効果であり、後者は回答のしやすさの程度など、調査を依頼される対象者における回答負担の大小、を通じての効果である。前者の調査員効果に属する主な要因として想定したのは、(a)研究者による調査員への調査の意義などについての事前説明の有無、(b) 調査員への完了報酬の方式の違い、である。これらのうち(a) は事前に調査会社の支局ごとに説明会の有無を決め、(b) も支局ごとに事前に割り当てを行った。後者の対象者効果については、(c) 面接調査のみ、面接・留置併用の2 通りの調査方式の導入、(d) 紙媒体の調査票への回答のほかにweb による回答方式の用意、を主な要因として想定した。(c) は事前に2 通りある調査方式のうちの1 つを対象者に事前に割り当てた。しかし(d) については、事前に割り当てることはせず、対象者の選択に委ねている。
前者の調査員効果の主な要因については、まず(a) 研究者による調査員への調査の意義などについての事前説明の有無は、回収率に有意な影響を与えることが見出されず、事前説明が調査員の熱意などにプラスの効果を与えるとの仮説のもとでは解釈が困難な観測結果も一部にみられた。一方、(b) 調査員への完了報酬の方式として、調査票を回収した調査完了報酬が、正規対象者と予備対象者とで同一である場合に比べ、正規対象者の調査完了報酬を予備対象者のそれよりも高く設定した場合には、正規対象者の調査票回収率が予備対象者のそれよりも有意に高くなることが観察された。後者の対象者効果の主な要因については、まず(c) 面接調査のみ、面接・留置併用の2 通りの調査方式の間に有意な回収率の差は観察されなかった。留置調査のみでなく面接調査を併用がとくに高齢者層の回収率を上昇せしめるであろうと想定していたが、少なくとも今回の調査ではそのような傾向は見出すことができなかった。つぎに(d)Web による回答方式により回収された調査票は、全体の約2% 程度にとどまったが、web 調査により調査票を回収し調査を完了できた対象者の属性分布には特徴が見られ、紙媒体の調査票により調査を完了できた対象者のそれにくらべ、常勤の職員・従業員の比率が高く、所得階層もやや高めであることが見出された。