ディスカッションペーパー

正規雇用者の労働時間と勤務時間制度の関係

DP番号 DP-2009-008
言語 日本語のみ
発行年月 March, 2010
著者 山下 周平
JELコード
キーワード
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要旨

本稿は、日本の構造的労働問題である「長時間労働」を制度論の観点から論じる。1988
年、長時間就業是正のために労働基準法が改正された。この改正により、週法定労働時間
が40 時間に短縮する方針が決定され、併せて、労働者が柔軟に労働時間を決定できるよう
支援する「弾力的労働時間制度」が導入された。この労働時間短縮と柔軟な労働時間決定
を目標とする政策変更以後、労働者全体の労働時間は大きく減少した。しかし、その一方
で、正規雇用者の労働時間は依然として長い状態にある。では、「弾力的労働時間制度」
は、正規雇用者の自発的労働時間決定に貢献しなかったのであろうか。
そこで本稿は、「弾力的労働時間制度」と労働時間の関係を「日本家計パネル調査」(JHPS)
の初回調査を用いて統計的に検証する。その結果、三つのことが明らかになった。「弾力
的労働時間制度」の内、フレックスタイム制及び裁量労働・みなし労働時間制は、一日の
労働時間を短縮する短時間勤務制度などの利用確率を高める。一方で、裁量労働・みなし
労働時間制の適用者および、労働時間管理のない管理職は一般的な勤務時間制度の者に比
べて有意に労働時間が長い。労働時間帯の柔軟な選択を可能にするフレックスタイム制は
一部の属性を除き、労働時間の長短には影響しないことがわかった。
制度ごとの適用者の多寡、業務遂行に必要なスキルの差異が労使間の「交渉上の地歩」
に影響し、その結果として労働時間に対する効果が異なると考えられる。労働時間の裁量
が与えられていたとしても、使用者と同等の交渉力をもたないために「仕事量」の裁量が
ない場合、労働者は自発的な労働時間選択を行えないことが改めて示唆された。