ディスカッションペーパー

在宅介護が離職に与える影響についての分析

DP番号 DP-2012-013
言語 日本語のみ
発行年月 March, 2013
著者 大津 唯
JELコード
キーワード
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要旨

本稿では「日本家計パネル調査(JHPS)」を利用し、要介護者との同居が 50~64 歳の就業
者の翌1年間の離職率に与える影響を分析した。その結果、次の点が明らかになった。
第一に、要介護4・要介護5の同居要介護者がいる場合、就業している有配偶女性の翌1
年間の離職率は有意に高くなることが観察された。一方、有配偶男性で要介護4・要介護
5の要介護者と同居し、かつ離職する者はサンプル中におらず、夫婦間で、稼ぎ主である
夫が就業を継続し、妻が離職して介護に専念するという役割分担のなされる傾向にあるこ
とが示唆された。
第二に、同居要介護者がいる場合、無配偶男性、無配偶女性とも翌1年間の離職率が有意
に高くなることが観察された。無配偶の場合には、性別に関わりなく介護の担い手となっ
て就業の継続を断念する可能性が示唆されたが、就労収入を制御すると、無配偶男性の離
職率への有意な影響は観察されなくなるため、解釈には一定の留保が必要である。
介護保険制度のもと通所・在宅介護サービスの拡充が進められている今なお、在宅介護
は離職を促進する要因となっており、介護と仕事の両立は困難であることがうかがえる。
要介護者の増加が見込まれるなか、同時に女性や高年齢者の労働供給を促進していくには、
より一層の施策が求められる。また、生涯未婚率は上昇傾向にあり、今後は介護を担う無
配偶者が増加していくことが予想される。無配偶者が介護と仕事の両立を図るにはより困
難を伴う可能性があり、今後の政策的課題となる可能性がある。