奨学金は大学への進学、大学卒業後の収入拡大・正規雇用の促進に寄与しているのか
DP番号
DP2016-003
言語
日本語のみ
発行年月
June, 2016
著者
萩原 里紗・深堀 遼太郎
JELコード
キーワード
奨学金、大学進学、返済、大学卒業後の就業・収入・時間当たり賃金
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要旨
本研究では、我が国において大学進学の際に多くの学生が利用している奨学金に着目し、
他の資金調達手段との比較も含め、奨学金の利用状況を確認した。その上で、奨学金が大学
進学の促進や、大学卒業後の収入・時間当たり賃金・正規就業率の上昇に影響を与えている
のかについて検証した。
その結果、主に以下の 3 点が明らかになった。(1)家計の教育資金の調達手段として奨学
金は重要な役割を演じているが、保護者の親族からの経済支援や教育ローンの存在も無視
できない。奨学金だけでは資金不足とみられる世帯は低所得層に偏っている。(2)奨学金の
予約採用制度は大学進学を促進させる効果を持つ。(3)奨学金を得て大学を卒業した者は、
高卒と比べて、卒業直後の収入、時間当たり賃金、正規就業率は高い。他方で同じ大卒で比
べると、差は見られない。また、高卒と大卒の間の差は、高校を卒業して 5 年が経過して勤
続年数を積み重ねた高卒と、勤続年数のない大卒を比べても見られる。
近年の日本学生支援機構奨学金の予約採用規模の拡大は、大学進学を促した可能性が示唆
される。奨学金貸与金額の引き上げや、併用可能な奨学金の拡充を給付・貸与を問わず行う
こと(ないしは授業料減免)によって、低所得者層により手厚い支援を行っていくことが今
後の課題である。同時に、低成長時代においては将来の不確実性が高まるため、奨学金の返
還猶予や減額の制度について周知徹底するだけでなく、所得連動返還型無利子奨学金制度
などに見られる返還の柔軟性をより一層確保していくことが求められる。