ディスカッションペーパー

「21世紀成年者縦断調査」を用いた育児支援政策の効果測定 -「子育て支援総合推進モデル市町村事業」の検証-

DP番号 DP2016-011
言語 日本語のみ
発行年月 March, 2017
著者 伊藤 大貴・山本 勲
JELコード
キーワード 女性の就業・出産、子育て支援総合推進モデル市町村事業、21世紀成年者縦断調査、DD分析
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要旨

本稿では,「21世紀成年者縦断調査」(厚生労働省)のミクロパネルデータを用いて,2004年から行われた「子育て支援総合推進モデル市町村事業」が女性の就業や出産行動に与えた影響を検証した。具体的には,2004年に実施された「子育て支援総合推進モデル市町村事業」に着目し,「慶應義塾家計パネル調査」(以下,KHPS)を用いて同事業の女性の就業に対する効果を検証した山本・伊藤[2014]を踏まえ,女性就業と出産の両側面から同事業の効果を検証した。分析の枠組みとしては山本・伊藤[2014]を参考に,同事業の対象となった市区町村を含む都道府県に居住しているサンプルをトリートメントグループ,それ以外をコントロールグループとみなしたDifference-in-Difference分析を行い,対象地域の女性の雇用や出産行動の変化を検証している。分析の結果,女性の就業に関してはいずれの雇用形態に関しても同事業の効果がみられておらず,山本・伊藤[2014]とは異なる結果が得られている。この点については,サンプルの居住地域情報を市区町村単位で捉えているKHPSとは異なり,「21世紀成年者縦断調査」におけるサンプルの居住地域情報が都道府県単位であることが主要因であると考えられる。実際にKHPSを用いて都道府県単位での分析を行った結果,同事業の就業に対する効果は確認できず,必ずしも本論文の結果から同事業の効果を否定することはできないという点については留意が必要である。一方で,女性の出産行動については,対象地域の女性の出産確率が有意に高まった可能性が示された。また,この効果は特に30代,あるいは中学・高校卒の女性で顕著に示されている。特に,中学・高校卒の女性については就業と出産の同時性を考慮した分析でも政策効果が確認されていることから,同事業の効果はこれら女性の育児環境を整える役割を果たした可能性が示唆される。