ディスカッションペーパー

高齢者の失業が健康に及ぼす影響

DP番号 DP2017-001
言語 日本語のみ
発行年月 April, 2017
著者 佐藤 一磨
JELコード J21, J26
キーワード 高齢者、失業、マッチング法
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要旨

 OECD諸国の中でも我が国の高齢化の進展速度は速く、少子化も同時に進行している。これら人口動態の変化は、年金等の社会保障制度の持続性を脅かすだけでなく、労働力不足を引き起こす。これらの課題に対処するためにも、高齢者の就労をさらに促進することが重要となる。しかし、高齢者の増加は同時に予期せぬ倒産等による失業に直面する労働者の増加につながる恐れもある。もし失業に直面した高齢者の所得だけでなく、メンタルヘルスに代表される健康が悪化した場合、高齢者の就業促進を阻むこととなる。今後、さらに高齢者が増加すると予想される現状を考慮すると、この影響の有無を検証する意義は大きい。そこで、本稿では高齢者の失業経験がメンタルヘルスに及ぼす影響を分析した。分析では、失業による内生性に対処するために倒産による失職を変数として活用し、マッチング法で推計を行った。分析の結果、以下の2点が明らかになった。1点目は、失職を経験した高齢労働者ほどメンタルヘルスが悪化することがわかった。この影響は特に定年前の59歳以下の高齢者で顕著であり、60歳以上だと失職してもメンタルヘルスは悪化していなかった。2点目は、失職時の雇用保険の受給の有無とメンタルヘルスの関係を分析した結果、雇用保険を受給してもメンタルヘルスは改善しないことがわかった。この結果から、失職後にメンタルヘルスが悪化する背景には、所得低下による影響よりも他のストレス等の要因が主な原因であると考えられる。