専業主婦が本当に一番幸せなのか
専業主婦は働く妻よりも幸せなのか。我が国の女性を取り巻く社会環境を考えた場合、この疑問の答えは明確だ。日本では性別役割分業意識が色濃く残っているため、妻に家事・育児負担が偏る傾向が強い。この結果、働く妻は仕事と家庭の両方の負担を背負うこととなり、専業主婦よりも幸福度が低くなると予想される。しかし、子どもの存在を考慮した場合、この関係はそのまま維持されるのだろうか。子どもの養育には多くの時間が必要となるだけでなく、精神的・肉体的な負担も大きい。この子どもの有無を明示的に考慮し、専業主婦と働く妻を分類した場合、幸福度の大小関係に変化が生じる可能性がある。具体的には、子どものいる専業主婦と子どものいない働く妻を比較した場合、どちらの幸福度が大きいのだろうか。また、子どものいない専業主婦と子どものいない働く妻を比較した場合、どちらの幸福度が大きいのだろうか。本稿ではこの点を家計経済研究所の『消費生活に関するパネル調査』を用いて検証した。分析の結果、次の5点が明らかになった。 1点目は、子どもの有無を考慮した結果、最も幸福度が高かったのは、子どものいない専業主婦であった。次いで子どものいない働く妻、子どものいる専業主婦、子どものいる働く妻の順に幸福度が高かった。この結果は、必ずしもすべての専業主婦の幸福度が高いわけではなく、子どもがいる場合、専業主婦の幸福度は子どものいない働く妻よりも低いことを示している。この背景には、子どもを養育する際の女性の負担が大きいことが影響していると考えられる。 2点目は、働く妻の就業形態の違いを考慮した結果、最も幸福度が高かったのは子どものいない専業主婦であったが、2番目に幸福度が高かったのは子どものいない正規雇用で働く妻であった。この結果は、正規雇用で働く際の高い所得や仕事からの満足度が幸福度の向上に寄与した可能性があることを示している。次いで子どものいない非正規雇用で働く妻、子どものいる専業主婦の順に幸福度が高かった。 3点目は、子どもの数の違いを考慮した場合、子どものいない専業主婦、子どものいない働く妻、子ども1人の専業主婦、子ども1人の働く妻、子ども2人の専業主婦の順に幸福度が高かった。また、子どもが3人以上いる場合、専業主婦と働く妻の幸福度に差は見られなかった。これらの結果から、子どもの数が多いほど妻の幸福度が低下する傾向にあることがわかった。 4点目は、夫婦関係満足度を用いて同じ分析を行った場合、いずれの場合でも幸福度とほぼ同様の結果を得た。 5点目は、バブル崩壊前の学卒と後の学卒で妻の幸福度の大きさを比較した結果、バブル崩壊後の学卒グループの幸福度の方が高かった。この原因の1つとして、バブル崩壊後の学卒グループほど、子どものいない働く妻の増加が影響を及ぼしていると考えられる。 以上の分析結果の中でも特に重要なのは、女性の子育て負担が大きく、幸福度が低下してしまうという点である。このような幸福度の低下が新たな出産の抑制につながっている可能性もあるため、女性の負担を緩和するサポートが必要だと言える。