【第1回学生論文コンテストJHPS AWARD受賞論文:審査員賞】
ダブルケアの負担感に関する実証分析―家族によるインフォーマルサポート に着目して―
近年の日本では、晩婚化の進行とそれに伴う第一子出産年齢の上昇により、子育てと親や親族の介護が同時期に発生するというダブルケアに陥る人々が今後増加すると考えられている。このダブルケアには、その担い手(以下、ダブルケアラー)の負担の問題に加え、少子高齢化に拍車をかける可能性などといった社会経済的リスクが存在するといわれ、ダブルケアラーの負担軽減や公的サポート体制の整備は国にとって今後重要な課題といえる。ダブルケアに関して、内閣府が2018 年に行ったアンケート調査では、ダブルケアラーの多くが配偶者や兄弟からの支援を受けていることが明らかとなっている。こうした家族や近隣のサポートは一般的にインフォーマルサポートとよばれ、ダブルケアの公的支援はこのインフォーマルサポートの多寡を考慮して行われる必要があると考えられる。そこで本稿では、「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」を利用し、ダブルケアが担い手の生活時間・メンタルヘルスに与える影響と、インフォーマルサポートがダブルケアラーの負担感に与える影響に関する分析を行う。負担感の指標としては、労働時間・睡眠時間といった生活時間や、心身症状指標・GHQ-12 といったメンタルヘルス指標を利用する。ダブルケアの影響に関する分析の結果、介護によるメンタルヘルスの悪化を、育児によるメンタルヘルスへの好影響が部分的に相殺することで、介護のみを行う場合よりもダブルケア時のメンタルヘルスが良好となることがわかった。さらに、インフォーマルサポートの影響に関する分析結果より、配偶者によるサポートが受けられる場合には時間的負担が軽減され、大学生の子どもがいる場合には精神的負担が軽減されることがわかった。これらのことから、ダブルケア状態はメンタルヘルス状態を悪化させるため精神的サポートは不可欠であり、特に配偶者や大学生の子どもによるサポートが期待できないダブルケアラーに対してはより手厚い支援が必要であると結論付けられる。