ディスカッションペーパー

新型コロナウイルス感染症流行初期の雇用者の就業・生活・ウェルビーイング ― パンデミック前後のリアルタイムパネルデータを用いた検証 ―

DP番号 DP2020-006
言語 日本語のみ
発行年月 January, 2021
著者 山本勲、石井加代子、樋口美雄
JELコード I31; J22; J71
キーワード 新型コロナウイルス感染症; ウェルビーイング; 格差; パネルデータ
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要旨

本稿では、新型コロナウイルス感染症が雇用者の就業・生活・ウェルビーイングに与えた影響について、2020年5月に実施した「新型コロナウイルス感染症が社会に与えた影響に関するJHPS特別調査」をもとに、属性間の差に着目しながら検証した。検証の結果、まず、新型コロナウイルス感染症の流行初期の就業面への影響としては、従来から景気後退に対する脆弱性が高いと指摘されてきた属性、具体的には、高齢層、女性、大卒未満の学歴、非正規雇用者、中小企業での雇用者といったグループ、さらには、飲食・宿泊といった対面を要するサービス業従事者で負の影響が大きかったことが明らかになった。こうした属性の雇用者は失職・休職・減収のリスクにさらされる一方で、在宅勤務の実施が進まず、労働時間の減少も限定的であった。次に、生活面への影響としては、2月から4月にかけて家事・育児・学習・睡眠時間がいずれも増加していたほか、男女間の違いに着目すると、家庭内の家事分担の変化は限定的であったが、育児時間は男性の負担が一部でより増加していた傾向もみられた。さらに、休職や労働時間の減少を経験した雇用者では、自己研さんへの時間が顕著だったこともわかった。一方、ウェルビーイングについては、2月から5月下旬〜6月上旬にかけてメンタルヘルスの悪化や幸福感やワークエンゲイジメントの低下、転職希望の増加がみられ、特に、就業面で負の影響を強く受けていた雇用者で顕著であった。さらに、どの属性によってアウトカムの格差が大きく生じていたかをBlinder-Oaxaca分解および回帰分析で検証した結果、就業に関係するアウトカムは、男女間の格差よりも、雇用形態(正規雇用・非正規雇用)間や企業規模間による格差の影響が顕著である一方で、メンタルヘルスについては男女間格差によるところが大きいことがわかった。