ディスカッションペーパー

子どもと幸福度-子どもを持つことによって、幸福度は高まるのか-

DP番号 DP2021-002
言語 日本語のみ
発行年月 April, 2021
著者 佐藤一磨
JELコード J12; J13
キーワード 子ども; 幸福度
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要旨

子どもを持つことによって幸せになるのか。これは多くの人々が疑問に思うものであると同時に、主観的厚生(Subjective well-being: SWB)を扱う経済学や心理学でも興味・分析の対象となってきた。本論文の目的は、慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターの『消費生活に関するパネル調査』を用いて、この疑問を改めて検証することにある。生活満足度を主観的厚生の指標として用い、既婚女性を対象とした分析の結果、次の4点が明らかとなった。1点目は、先行研究と同じく、日本でも子どもの存在が既婚女性の生活満足度を低下させていた。子どもの数が多くなるほど、特に13-17歳の子どもの人数が多いほど、子どもによる負の影響が強くなっていた。2点目は、世帯の支出状況を考慮しても、子どもの負の影響は消失しなかった。この結果は先行研究と異なっており、日本では子どもによる金銭的負担が生活満足度を低下させる主な原因とはなっていないと考えられる。3点目は、夫婦関係満足度を考慮した場合、子どもの負の影響が低下したが、その低下幅は金銭的負担を考慮した場合よりも大きかった。この結果から、子どもの存在は、主に夫婦関係満足度の低下を通じて、生活満足度を減少させていたと考えられる。4点目は、既婚女性の就業状態別の分析を行った結果、無業の場合、世帯の支出状況と夫婦関係満足度を考慮すると、子どもの負の影響は消失した。しかし、就業している場合、世帯の支出状況と夫婦関係満足度を考慮しても、子どもの負の影響が依然として残っていた。この結果から、働いており、家庭と仕事の両方の負担を担っている既婚女性では、世帯の支出状況や夫婦関係満足度以外の要因も子どもの負の影響の原因となっている可能性がある。