ディスカッションペーパー

コロナ禍での在宅勤務の潜在的メリットと定着可能性:パネルデータを用いた検証

DP番号 DP2021-007
言語 日本語のみ
発行年月 October, 2021
著者 石井加代子、中山真緒、山本勲
JELコード I31; J71
キーワード 新型コロナウイルス感染症; 在宅勤務; 所得; 労働時間; ウェルビーイング
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要旨

本稿では、「日本家計パネル調査(JHPS)」とその特別調査「JHPSコロナ特別調査(第1回・第2回)」のパネルデータを用いた差分モデルにより、コロナ禍における在宅勤務の就業面や生活面への影響を検証したうえで、多項ロジットモデルにより、在宅勤務が定着しやすい労働者や企業の条件について明らかにした。分析では、在宅勤務の潜在的なメリットの大きさの違いに着目して、第1回緊急事態宣言下の2020年4月と宣言解除後の2020年9月における在宅勤務実施状況により、分析対象を3つに分類し、在宅勤務の潜在的メリットが大きいほど、在宅勤務を継続して実施していると想定した。差分モデルを推定した結果、応急処置的に4月のみ在宅勤務を実施したグループでは、労働時間の減少や主観的生産性の低下といったマイナスの影響がみられた。一方で、9月以降も在宅勤務を継続させたグループでは、労働時間や月収、主観的生産性、家事時間、睡眠時間の増加やメンタルヘルスの向上がみられるなど、就業面や生活面でプラスの影響が確認できた。こうした在宅勤務のプラスの影響がみられる労働者の特性を多項ロジットモデルの推定により検証したところ、仕事の裁量度が高く、成果や効率性が重視される職場に勤めていること、また、個人としては、ITスキルが高く、抽象タスクが高い仕事に従事している傾向があることが明らかとなった。在宅勤務の普及に向けて、仕事の裁量度を高め、成果や効率を重視するといった柔軟な働き方に向けた企業側の取り組みに加えて、労働者のITスキルの向上や、高度な抽象タスクに従事できる人材の育成が重要であることが本稿の分析より示唆された。