高齢期における子どもの存在は幸せをもたらすのか
多くの先進国で高齢化が進展しており、高齢者の主観的厚生に影響を及ぼす要因について研究が進められている。本研究では、高齢の親に対して子どもの存在が及ぼす影響について注目する。これまでの研究結果を見ると、子どもの影響は、使用する主観的厚生の指標や国によって異なる結果を示しており、必ずしも統一的な見解が得られていない。また、先行研究の大半はヨーロッパのデータを用いており、その他の地域での子どもの影響についてはあまり分析されていない。そこで、本研究では『日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)』を用い、日本の60歳以上の高齢の親の主観的厚生に対して、子どもの及ぼす影響を検証した。OLS、Propensity Score Matching、Inverse-Probability-Weighted Regression Adjustment、Entropy Balancingを用いた分析の結果、次の3点が明らかになった。1点目は、有配偶の男女の場合、子どもの存在は生活満足度と世帯所得満足度を低下させていた。また、子どもの存在は世帯貯蓄額を低下させ、世帯負債額を増加させる傾向があった。これらの結果から、日本では子どもを持つことの経済的負担が大きく、その影響が生活満足度を低下させる原因の1つになっていると考えられる。2点目は、有配偶者と無配偶者の両方を分析対象とした場合でも、子どもの存在は生活満足度と世帯所得満足度を低下させていた。ただし、有配偶者のみの場合と比較して、子どもの及ぼすマイナスの影響は、特に女性において小さくなっていた。3点目は、無配偶者のみの場合、子どもの生活満足度へのマイナスの影響は消失していた。また、子どもの存在は世帯所得満足度を向上させていた。これらの結果から、高齢の親に配偶者がいない場合、子どもが生活面や経済面での支援を行い、親の主観的厚生を高めている可能性が考えられる。