ディスカッションペーパー

弟がいる長女と妹がいる長女で就学、就業、賃金、家族形成に違いが生じるのか

DP番号 DP2021-010
言語 日本語のみ
発行年月 January, 2022
著者 佐藤一磨
JELコード J12; J13
キーワード きょうだい構成; 弟を持つ長女; Unconditional Quantile Regression
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要旨

きょうだいの構成が成長後の子どもの就学、就業、家族形成に及ぼす影響について、これまでさまざまな研究が行われてきた。これらの先行研究では弟がいる女性ほど、親との関わり合いや女性自身の行動が変化し、性別役割分業意識に沿った行動を取るようになると想定しており、その結果として、賃金が低下することを示している。しかし、これらの研究は主に欧米のデータを使用しており、その他地域の実態については検証されていない。そこで、本研究では日本のパネルデータを用い、きょうだいの構成が子どもの成長後の就学、就業、賃金、家族形成に及ぼす影響について検証した。本研究では親の選好によるバイアスに対処するためにも、弟を持つ長女と妹を持つ長女を比較し、きょうだいの構成の影響を検証する。分析の結果、次の5点が明らかになった。1点目は、弟を持つ長女ほど大卒割合が高くなっていた。この結果は予想と異なっていたが、背景には持続的な女性の社会進出とSon Preferenceがほぼ見られない日本の現状が影響している可能性がある。2点目は、弟を持つ長女ほど時間当たり賃金率が低下していた。また、弟を持つ長女ほど正規雇用就業率が低く、無業率が高くなっていた。これらの結果から、弟を持つ長女ほど正規雇用につきにくく、これが賃金の低下の原因の1つになっていると考えらえる。なお、業種や職種の選択に関しては、きょうだい構成の影響が確認できなかった。3点目は、Unconditional Quantile Regressionを用いた分析の結果、弟を持つことの賃金への負の影響は、賃金分布の上位層で特に強かった。この結果から、弟を持つことは、男女間賃金格差の拡大に寄与する可能性がある。4点目は、弟を持つ長女ほど婚姻率や子どものいる割合が高く、家事・育児時間も長くなる傾向があった。5点目は、弟を持つ長女ほど性別役割分業意識に肯定的な意見を持ちやすい傾向があった。