ディスカッションペーパー

【第3回学生論文コンテストJHPS AWARD受賞論文:審査員賞】
転職がワーク・ライフ・バランスに与える影響 ―満足度と家事育児時間の観点から―

DP番号 DP2021-013
言語 日本語のみ
発行年月 March, 2022
著者 徳永紗彩
JELコード I31
キーワード 転職; ワーク・ライフ・バランス; WLB; 家事育児時間; 男性の家事育児時間
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要旨

日本では、男女共同参画社会を目指し、就業可能性の拡大、少子化への対策としてワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)が追求されている。内閣府が2007年に立てた2020年までの数値目標の達成状況を見ると、女性の就業率が高まる一方で、男性の育児休業取得率や家事・育児関連時間などはやや改善しているものの目標に達していない。本稿では、労働市場の流動性を高め、個人として最適なワーク・ライフ・バランスを実現する手段として転職に着目し、転職によってワーク・ライフ・バランスは向上しうるという仮説の検証を行った。加えて、これまで仕事面での効果についての分析が中心だった転職について、仕事と表裏一体である家庭生活にどのような影響を与えるか、特に転職が男性の家事育児時間に与える影響について実証的に分析した。具体的には、日本家計パネル調査(JHPS)の個票データを使用し、転職経験に関するダミー変数を説明変数、ワーク・ライフ・バランス満足度の変化、男性の家事育児時間をそれぞれ被説明変数とするパネルデータ分析を行った。結果として、自発的な理由での転職は、男性の場合に限りワーク・ライフ・バランス満足度に正の影響を与えており、仮説は立証された。一方で、転職が男性の家事育児時間に対して与える影響は負であり、仕事やワーク・ライフ・バランス満足度に対するプラスの効果が、家庭参加の縮小という犠牲の上で成り立っている可能性を示した。このことは、企業内のワーク・ライフ・バランス施策と並行して転職市場の拡大を進めることが、個人として最適な仕事と生活の配分の達成に寄与する一方で、転職の影響について仕事面での効果だけでなく家庭生活に与える影響についても分析が進められていくべきであることを示唆している。