管理職での就業は主観的厚生と健康にどのような影響を及ぼしたのか
高い職階での就業が主観的厚生や健康に及ぼす影響について、これまでさまざまな分析が行われてきた。近年のパネルデータを用いた分析を見ると、管理職といった高い職階での就業が主観的厚生や健康を改善させる結果もあれば、逆に主観的厚生や健康を悪化させる結果も指摘されている。このように管理職での就業の影響については、まだ統一的な結論に至っていないため、さらなる実証分析の蓄積が望まれる。また、ほとんどの研究がヨーロッパのデータを用いているため、ヨーロッパ以外の地域でも同一の結果が得られるのかという点が明らかになっていない。そこで、本研究では日本のパネルデータである『日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)』を用い、管理職での就業が主観的厚生や健康に及ぼす影響について分析した。本研究では女性の管理職者割合の増加を政策目標として捉えている日本の現状を考慮し、特に女性の管理職の就業が主観的厚生や健康に及ぼす影響について注目した。本研究の分析の結果、次の4点が明らかになった。1点目は、FE OLSを用いた推計の結果、男女とも管理職で働いていても幸福度や主観的健康度が上昇する傾向は確認できなかった。2点目は、男女とも管理職での就業によって所得は増加していたが、世帯所得満足度は影響を受けていなかったため、管理職で働くことの金銭的な報酬が十分ではない可能性がある。また、管理職で働く女性の場合、余暇時間満足度と仕事満足度が低下しており、管理職で働く負担面が大きいと考えられる。3点目は、男女ともに管理職への昇進前後の数年間で幸福度に変化は見られなかった。しかし、女性では管理職に昇進した2年後、男性では管理職に昇進した1年後以降に主観的健康度が悪化していた。4点目は、配偶者が管理職で働く場合、女性の幸福度や主観的健康度は影響を受けていなかったが、男性の幸福度や主観的健康度は低下していた。妻の管理職での就業は夫に負の影響を及ぼすが、この背景には夫の家事労働負担の増加や性別役割分業意識からの乖離が影響していると考えられる。