ディスカッションペーパー

【第4回学生論文コンテストJHPS AWARD受賞論文:最優秀賞】
禁煙と適正体重のトレードオフ関係と性格特性-「日本家計パネル調査」を用いた禁煙と肥満のメカニズムとそのプロセスの実証分析-

DP番号 DP2022-009
言語 日本語のみ
発行年月 March, 2023
著者 青田賢樹、安書隣、田尾歩、髙﨑桃子
JELコード C33
キーワード 禁煙; 肥満; 時間割引率; 性格ビッグファイブ; パネルデータ分析; 固定効果モデル; 変量効果モデル
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要旨

本稿では、禁煙と肥満(BMI)の関係とそのメカニズムやプロセスについて、「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS) 」を用いて実証的に分析した。先行研究では、喫煙と肥満のそれぞれが健康や生産性、人的資本、経済成長などへ多岐にわたる負の影響をもたらすことや、喫煙行動やカロリー摂取行動による肥満が時間割引率と関係していること、喫煙や肥満は個々人の性格特性と相互に関わりあっていることなどが明らかにされている。しかし近年、海外の研究では、禁煙者ほど肥満になる可能性があり、禁煙と適正体重にはトレードオフの関係がある可能性が指摘されている。一方で、この関係が日本でも存在するのか、また、存在するとすれば、そのメカニズムやプロセスについては必ずしも明らかになっていない。そこで、本稿では、パネルデータを用いて、観測不能な個々人の異質性を排除した上で、禁煙と肥満の関係を分析し、禁煙と適正体重にはトレードオフ関係が存在するのかについて明らかにした。また、このトレードオフの関係が時間割引率などの性格特性によってもたらされるのかというメカニズムや、禁煙によってどのように食生活が変化することで肥満につながるのかといったプロセスについても検証した。分析の結果、喫煙者と喫煙経験のある禁煙者、喫煙経験のない非喫煙者で比較すると禁煙者ほど肥満度合いが高いことや、同一個人でも禁煙することによって肥満度合いが高くなる傾向があり、この傾向は1年程度続くということなどが示された。また、喫煙と肥満の双方に影響を与える性格特性として、時間割引率や外向性の高さと勤勉性の低さがあることなどが明らかになった。さらに、喫煙者が禁煙することで、喫煙欲の代替として食欲や飲酒欲が高まる傾向が見出せた。以上を踏まえると、禁煙には肥満につながるリスクがあり、また、特定の性格特性の強い人ほどそのリスクが大きいといえる。したがって、喫煙と肥満の両者を考慮した生活習慣病予防策が必要であり、例えば、個々人の性格特性に着目した禁煙後の肥満予防策を検討することや、禁煙後の食生活の指導を行うことなどが重要といえる。