タスクモデルを用いた男女間格差の考察
ここ数十年で男女間賃金格差は大幅に縮小したものの,他の先進国と比較すると日本の男
女間賃金格差は未だに大きい水準にある。これまでの研究では,年齢や勤続年数の男女間で
の属性差が男女間賃金格差の主要因であると指摘されてきたが,同時に,これら属性差の影
響力が弱まっているという結果も得られており,先行研究が考慮していない別の要因の影
響力が高まっている可能性が示唆されている。そこで,本稿では,その一つの可能性として
考えられる業務内容(タスク)に着目し,タスクが賃金や賃金格差に与える影響を検証した。
具体的には,Motor-task(運動能力を要するタスク)・Analysis-task(分析能力・思考力を
要するタスク)・Interaction-task(コミュニケーション能力を要するタスク)を算出し,こ
れらタスクが男女間賃金格差に与える影響を検証した。さらに,これに加えて,3 つのタス
クの値に応じて各職業を Motor-intensive・Analysis-intensive・Interaction-intensive に分
類し,男女間のタスクの属性差が生じる要因についても分析を試みている。分析の結果,男
女ともに Analysis-task が賃金に正に有意であり,分析能力に対する要求度が高い業務であ
るほど賃金が高いという結果が得られた。また,賃金格差への影響をみてみると,タスクの
属性差,すなわち男性の方が多くの Analysis-task を行っていることが賃金格差を拡大させ
ている可能性が示された。さらに,男女間賃金格差に対するこれらタスクの影響力が高まっ
ているという結果も得られた。これに関連して,タスク別の就業関数の推計結果をみると,
女性は Analysis-intensive な職業に就く確率が低いことが示されているが,特に,社内の配
置転換や転職が女性を Analysis-task から遠ざけている可能性がある。